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東京地方裁判所 昭和34年(タ)91号 判決

原告 藤原栄太郎 外一名

被告 検察官

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は全部原告等の連帯負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は原告等両名と本籍神奈川県小田原市曾比二千八百三十九番地亡片山昇との間に親子関係の存在することを確認するとの判決を求める旨申立て、その請求の原因として、

一、原告藤原栄太郎と原告藤原ウタとは事実上婚姻したが、原告ウタが本籍神奈川県小田原市曾比二千八百三十九番地片山丑五郎の一人娘であり、片山家の推定家督相続人であつた関係上、藤原家に入籍できなかつたので、原告等の間に出生した子を片山家の家督相続人とした上で、原告等間の婚姻の届出をすることにした。

二、而して原告ウタは原告栄太郎の子を懐胎して大正七年十月十日請求趣旨記載の昇を分娩したので、大正八年三月二十七日、同人を一先づ本籍愛媛県宇摩郡中曾根村口百五十番戸石川珠造(原告栄太郎の母の弟即ち栄太郎の叔父)同人妻ヤスの三男として同月十五日に出生したものとしてその届出を了した上、右珠造の代諾のもとに、昇と前記片山丑五郎、同人妻タツとの間に大正九年二月十六日、同人等を養親として届出による養子縁組を取結び昇が原告ウタの家である片山家に入籍したので、原告等は同年三月二十六日婚姻の届出を了し、原告ウタは原告栄太郎の戸籍に入るに至つた。

然し昇に関する以上の措置は戸籍上のみのもので実際は同人は原告等両名の間に生れた子であるから、出生以後は昇は原告等夫婦に育てられ同人は勿論のこと親戚周囲の者も原告等と昇を親子として取扱つて来たのである。

三、片山昇は今次の戦争に出征中昭和二十年七月三十日、ミンダナオ島において戦死したのであるが、同人は未婚で一人の子すらない。而して前記の如く、同人は戸籍簿上、原告等の子として記載されてないものの、真実は原告等間の子であるから、原告等は戦没者遺族等援護法により、同人の遺族として同法の扶助を求めうるのであるところ、同人が戸籍簿上、原告等の子として記載されて居ないため、右扶助を受け難いので、同人が原告等の子であることを確認する旨の判決を得て右扶助を受け且つ戸籍簿の記載を是正するため、本訴に及んだ。

と陳述し

立証として甲第一乃至七号証を提出した。

被告は原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告等主張事実中、昇がその主張の日出生し、その主張の日、同人の出生届がなされたこと、及び同人が戦死したことは認めるがその余の事実は知らないと述べ、甲第四号証は不知、爾余の甲号証の成立を認めると述べた。

理由

一、原告等は、原告等間の子片山昇が戸籍上、原告栄太郎の母の弟石川珠造、同人妻ヤス間の子として出生した旨の不実の記載がなされているとし、検察官を被告として、原告等と昇との親子関係存在の確認を求めるものであるが、昇は既に死亡しているのであるから、同人との間の親子関係は過去の法律関係に属するものと謂うべく、従つてその確認を求める本件訴は所謂確定の利益のない不適法な訴であり、検察官を相手方とする人事訴訟手続法第二条第三項を類推適用すべき根拠を欠くと謂うべきである。この結論は、身分関係を直接の訴訟物とする訴は民法、人事訴訟手続法等の規定上制限的列記的なものであることが明らかであり、法律に人事訴訟法上の訴として規定ある場合には一般的な確認の訴を以て身分関係の存否を確定することは禁止されて居ると解すべきこと、民法第七百八十三条二項によれば父又は母は死亡した子でも、その直系卑属があるとかに限り之を認知することが出来る旨規定するから、直系卑属のない場合(本件は之に当る)は実体法上認知を為し得ないこと等に徴しても明らかであると謂はなければならない。(尚戦没者遺族等援護法による扶助を受けるためには、原告等の主張に従へば、少くとも原告藤原ウタは昇の実母として支給義務者を相手方として訴を提起し、その理由として親子関係の存在を主張立証して扶助料請求権の確認を求めるか、若くは扶助料の支払を求める等の方法があるものと考へられる。蓋し法律上の母子関係は分娩の事実によつて生ずると解するを相当とするからである。)

二、よつて本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木忠一 田中宗雄 柏原允)

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